インド日本商工会(JCCII)が初の会員数500人越えを達成
ACN独占インタビュー: デリーとNCR(デリー首都圏)地域の日系企業が参加するJCCIIは会員企業数を現在の513社から2025年までに620社に増やすことを目標に掲げている。日系企業の総数はインド全土で約1400社。
堀越 卓朗 インド住友商事株式会社 社長は、より多くの日系企業がホスピタリティ、食品、半導体などの新しい分野でもインドに注目していると述べた。堀越氏はインド日本商工会(JCCII)会長でもある。
アジアコミュニティニュース ネットワーク(ACN)のサンジーブ・K・アフージャ編集長(外交担当)とのインタビューで堀越氏は、政府レベルや民間レベルによる二国間交流の増加、両国首相による相互訪問のおかげで日本のメディアにはインドに注目しており、インドの発展と可能性についてこれまで以上に前向きな記事が掲載されていると述べた。日本におけるインドのイメージが向上している。住友商事で31年勤務してきた同氏は、インド政府が講じた多くの改善点や政策関連の取り組みが、より多くの日本の民間企業の注目を集めることに成功しつつあると考えている。また、アジア大洋州住友商事の総支配人補佐でもある同氏は、日本企業がインドで直面している課題などについても語ったが、特にここ9~10年でインドの状況は劇的に改善しているという。以下は同氏のインタビューからの抜粋:
質問:インド日本商工会(JCCII)の会員数が初めて500名を超えましたが、これについてコメントをお願いします。
堀越:インド日本商工会(JCCII)は、日系企業がインドでのビジネスの可能性を広げられるよう、常に尽力しています。インドでは、政府による企業優遇措置があり、日系企業にとってインド市場を楽観的にみています。JCCII は、インドの日系企業の繁栄のために活動する中枢となる組織です。JCCIは2006年に日系企業147社を会員としてインドで発足し、現在では513社(2023年10月1日現在)まで成長しています。2025年には日系企業会員数を10%増の620社にすことを目標に掲げています。
日本企業がインドに進出したのはかなり前のことですが、商工会の会員数が初めて大幅に増加したのは2006 年から 2014 年にかけてのことでした。2009 年の BRICS 結成などが主な要因にとなりますが、JCCII 会員数は 2006 年の 147 社から 2014 年には381 社へと成長を遂げました。しかしながら、2014年以降は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックや世界的な自動車市場の低迷などの要因で、減速が見られました。今、第 3次ブームとも第4次ブームとも言える状況が到来しており、JCCII の会員企業数は 2022 年から 2025 年の間に 10% 増加し 620 社まで達する見込みです。インドには約 1400 社の日系企業が進出している点からも、成長軌跡が見込めるとともに、より多くの日系企業がインドに進出すると思います。JCCII はインドの日系企業がインドで飛躍できるように、引き続き重要な役割を担っていきたいと思います。
JCCII にはデリーおよびその周辺の NCR(デリー首都圏)に拠点を置く日系企業の大部分が加入しています。インドのチェンナイ、バンガロール、ムンバイ、プネなどをはじめとする他の地域にも、在チェンナイ日本商工会など、それぞれ名称は異なりますが同様の組織があります。その中には、日本人会商工部として活動しているところもあります。JCCII はインドにおける日系企業を牽引する最大の組織で、インドの中心部であるニューデリーにオフィスを構えており、日本大使館からも近い距離にあります。
JCCII はインド政府部門 DPIIT にビジネス環境改善提案書を提案を提出しており、インド国内の他の地域にある日本商工会議所からもフィードバックや提案を吸い上げています。これは、毎年行っている活動です。今年もビジネス環境改善委員長により11月にDPIITにビジネス環境改善提案書を提出しました。このテーマに関する会議には、貿易部会、金融部会、ロジスティックス部会、輸送機器部会、素材・化学工業関連部会、電気及び電子機器、通信、ソフトウェア関連部会部門、社会インフラ・プラント・重工・建設業・鉄鋼関連部会、医療機器部会などのすべての委員会が参加します。
質問:デリーやNCR(デリー首都圏)で近年、日系企業が存在感を高めているのはどの産業分野(セグメント)ですか?
堀越:食品やレストランなどの消費財企業、不動産関連の分野がデリーやNCR(デリー首都圏)に進出しています。また、エネルギーや半導体の分野で日本からインドに進出してきた企業もあります。この傾向を鑑みて、ホスピタリティーサービス部会と食品部会を新しく発足しました。日系企業の事例としては、日本のNo.1ウイスキーブランドであるサントリーが出資し、インドでオークスミスを醸造するBeam Global Spirits & Wine (India) Pvt.や、日本のNo.1ビールブランドであるキリンのシンガポール拠点(Kirin Holdings Singapore Pte. Ltd.)が出資する、インドのビール会社BIRAなどがあります。
ACN独占インタビュー
プロファイル:(Profile)
堀越 卓朗, インド住友商事会社 社長 & インド日本商工会 (JCCII) 会長
学歴:Educational Background
1992年 東京大学 経済学部 卒業
職歴: Work history
1992年:住友商事株式会社 入社 鉄鋼業務部(東京)
2011年:米国住友商事 米州鋼材・非鉄金属グループ(シカゴ)
2016年 住友商事株式会社 厚板・建材事業部 副部長(東京)
2017年 住友商事株式会社 ラインパイプ・厚板条鋼事業部長(東京)
2021年:インド住友商事株式会社 社長 (ニューデリー)
2022年 :理事
アジア大洋州総支配人補佐
アジア大洋州住友商事グループ
インド住友商事会社 社長
一方で、インドはその計り知れない可能性を秘め、大規模な投資が期待できるにもかかわらず、ビジネス環境面ではいくつかの課題が残っています。インド・政府はビジネス環境改善ランキングなどを改善しようとしており、それがより多くの日系企業を誘致することでしょう。複数の企業では、税制、土地収用、関税などの特定の分野で課題に直面していますが、簡素化されたGST税制や配当課税問題など改善されてきている面もあります。インドは依然として難しい国だと多くの人が思っていると思いますが、ここ 9 ~ 10 年で多くの変化がありました。過去に機会がなかっただけで、インドを遠く感じている中小企業も数多くありますが、一方で、インドは東アジア諸国と距離的に近く、類似した文化やより多くの知見があると感じています。近年、日本人がインド人に親近感を抱き始めているのも、G2G関係が強化されたためかもしれません。
質問.日本のメディアで見られるインドの発展と可能性に関する記事の掲載が好意的なインド中心の風潮を示唆しています。近年このように風潮が変わってきたのはなぜですか?
堀越:今年は日本のメディアでインドに関する記事をたくさん目にしました。私がインドに来た2年前とは全く異なり、良い方向へ発展を遂げています。インドのイメージ構築において、メディアの役割は重要です。日本とインドの両政府の方針が両国間のビジネス促進を強く推し進めています。それに加えて、ビジネス代表団を率いた菅前首相や、日本の外務大臣のインド訪問などのこうした政府主導の活動は、メディアでも取り上げられています。一昨年、日本とインドは外交関係樹立70周年を祝い、それを記念して数多くのイベントが開催されました。岸田首相もインドを3回訪問し、日本のインドへの5兆円投資の目標を強く主張しました。また、モディ首相も日本に3回訪問し、2022 年と 2023 年の今年度には国を越えた多くの相互訪問が行われ、その全てがメディアによって非常によく取り上げられました。それに加えて、日本の学生20名がインドの学生と共に、ニューデリーからバラナシまで陸路で旅をしたアイデアソンは、日本とインドの多くのメディアで取り上げられました。
ビジネス環境に関するインドの世界ランキングは劇的に順位を上げています。一方で、日系企業のみならず他国企業にとってもインドのビジネス環境は改善の余地がありますが、インドはこの局面を好意的に捉えています。
質問:2023~24年の任期におけるJCCII会長としての優先事項は何ですか。2023-24年度のJCCIIの活動について、JCCIIの活動計画の5本柱について説明をお願いします。
堀越:最も重要な活動の 1 つは、インド政府に対するビジネス環境改善提案書です。2本目の柱としては、会員企業の代表者が参加する第3木曜の月例会(三木会)の充実などが挙げられ、会員企業の支援の為、複数のセミナーや専門家によるセッションが開催されています。
3 本目の柱は、コミュニティの充実と部会・分科会の開催です。これは部会・委員会の定期的な活動を意味します。JCCIIの会員間で活発にコミュニケーションを取り合いたいと考え、会員企業への定期的なフィードバックもお願いしています。JCCIIは単なるビジネス組織というだけではなく、活気のある組織です。JCCII事務局長の杉野健二氏は、会員の満足度を高めるため、交流の促進とコミュニケーションの向上に尽力しているキーパーソンの一人で、JCCI の会員獲得に貢献しています。
4つ目の柱は、JCCIIニュースレターとウェブページの充実で、会員の満足度を向上させています。
5 本目の柱は、JCCIIという組織の拡大です。より多くの会員を獲得し、デリーと NCR (デリー首都圏)地域として拠点の拡大を目指します。JCCIIはインド最大の日系組織ですが、ベトナム、タイ、中国など日系企業の進出が多い他国と比べると、会員数が少ない為、より一層尽力する必要があります。
質問:より多くの日本の若手起業家やスタートアップをインドに誘致するには、どの分野でどんなことができると思いますか。
堀越:日本企業の中には、IITや一部の若者向けの学校など、高等教育機関との連携を図っているところもあり、企業による個別活動も見受けられます。このような取り組みの一つとして、一昨年の 70 周年記念におけるアイデアソンの開催があります。この活動の今後の継続の仕方は確定しておりませんが、日本とインドでいくつかのイベントが開催されているように、このような機会を模索しています。
日本からの新たなビジネスの傾向を見据えて、JCCIIではホスピタリティーサービス部会と食品部会を発足しました。JCCII はインド進出する企業に対しても支援を行う役割を継続していきます。
English article: In a first, Japan Chamber of Commerce and Industry in India (JCCII) achieves record 500 plus membership mark